東洋シヤッター株式会社 生産製品本部 技術部 第1技術課 チーフ
亀井 敦
(略歴)大阪府出身。2009年4月に東洋シヤッター株式会社入社。以来、ドア製品の開発に携わり続けて現在に至る。その間、TSレバータイトの性能向上や製品バリエーションを増やすといった事案に携わり続けるとともに、今回ご紹介するTSウォータータイトについては一から製品開発を手掛けた。開発者として大切にしていることは、お客様が少しでも使いやすく、必要な性能が必要な時に手間なく確保できる製品に仕上げること。また、子供たちに胸を張って自慢できる製品を開発することをモットーとしている。
全国の浸水被害に苦しむ方のために、
いつものドアに止水性能を付けて欲しい。
そんな声に応えるために開発に取り組みました。
- ―TSウォータータイトを開発することになったきっかけについてお聞かせください。
- ゲリラ豪雨という言葉がニュースなどで大きく取り上げられるようになったこと、加えて2011年に東日本大震災が発生して以降、水害への意識が全国的に高まりました。そうした流れを受けて、競合他社も浸水対策に役立つ製品を次々に発売したのですが、それこそ潜水艦に使うような仰々しい扉だったり、水防板ではとても重かったり、使いにくいものが多かったのです。
そんな時、設計事務所に聞き取りを行う中で、気密性能や遮音性能などと同様に、いつものドアに止水性能を付けられないのか、というご要望があり、それがきっかけで開発に取り組むことになりました。
- ―まさに、お客様と一緒につくる「MAKE with」といったイメージですね。
開発するにあたり大切にされていたことは何でしょうか。 - もちろん「水を止める」ということだけ考えると、扉の強度を高めてゴムで扉の隙間を防げば良いことはわかっていますが、重要なのは「従来のドアの見た目や使い勝手を変えず止水性能を付与すること」です。いくら優れた止水性能を発揮したとしても、使いにくいものでは市場に受け入れてもらえません。
ですから、最初は一般的なSATドアと言われる製品の止水性能を確認することから始めました。そこから止水性能の要であるゴムの形状や硬さなどを少しずつ変更することで、どこまで性能が向上するのか実験で確かめ、一般的な扉厚で、かつ高い水圧にも耐えられる着地点はどこなのかを探り続けました。しかし、想定よりも水が抑えられなかったり、扉の強度が不足していたり、思ったようにうまくは進みませんでした。特にゴムの形状が決まるまではとても苦労しましたね。しかも、私は扉を閉める際にグッと押し込まなくても自然と閉まるような使い勝手を求めたので、それはたいへんでした。
最終的にゴムに独自の形状をした“ヒレ”を着けることで理想の止水性能と使い勝手を両立させることができ、このゴムの形状で特許も取得することができました。粘り強く最後まで協力してくれた上司や関連部署のアドバイスのおかげだと感謝しています。
公的機関立会いの実験も無事にクリア。
製品バリエーションも揃えることで、
さまざまな場所で使える製品になりました。
- ―止水性能を確かめる実験はどのようにして行ったのですか。
- 奈良工場にある実験棟に水槽を作り、実際に水を溜めて行いました。大河川の氾濫などを想定して、公的機関立会いのもと、ドアが水没する3mの高さまで水を溜めて実験を行ったのですが、上から見下ろした際に、浸水時の状況が鮮明に想起されて少し怖くなりました。しかも、途中で製品だけではなく水槽が水圧でたわみはじめて最後までハラハラしましたね。
しかし、そんな状況でも屋内への漏水を最小限に食い止めることができ、試験を問題なくクリアできた時はとても誇らしく思いました。
- ―片開きタイプだけでなく、製品バリエーションも豊富ですよね。
- そうですね。窓付きタイプや両開きタイプなど4つのバリエーションを同時に開発しました。その中で言うと両開きタイプが最も手がかかりましたね。片開きタイプとは違い、中央のいわゆる“召し合わせ部分”が弱点となり、どうしても水圧でたわみ隙間ができてしまうのです。この課題についても、扉自体の厚みは変えずに取り組んだので時間を要しましたが、最終的には扉の骨材を増やすことで強度を高め、専用のゴム材を用いることで止水性を確保しました。
加えて先行分を発売したあとで、水害の際の出入り口を確保するためにはどうしても「水防板」が必要になるということも分かりました。それなら…と開発したものが、TSウォータータイトの避難可能タイプになります。これは一枚の扉が上扉と下扉に分かれているので、上扉さえ開けば下扉で止水しながら避難できるという製品です。下扉の高さを水防板として求められる基準に限りなく近づけながら、いざという時に人が跨げる最大1mに設定しているので浸水から身を守りながら避難することが可能です。
こうして製品バリエーションを増やしたことで、今では浸水対策に取り組んでいるさまざまな施設に採用いただいています。開発者として欲を言えば、将来的に駅などのインフラを支える施設に採用いただけたらとても嬉しいですね。
私たちのもとに相談に来ていただける関係が理想です。
- ―亀井さんは開発者として「MAKE with」という取り組みについてどう思われますか。
- やはり社内でどれだけ検討しても発想に限界がありますし、いくら苦労して開発しても世の中のニーズに沿っていないと必要とされません。その点、設計事務所やエンドユーザーの声に耳を傾け、本当に望んでいるものを開発できる「MAKE with」という試みは素晴らしいと思いますね。
ただ、ここでもう一つ欲を言えば、設計事務所やエンドユーザーの方から「こんな製品が欲しい」「こんな製品は作れないか」と相談に来ていただけるような取り組みにまで発展させたいですね。それができてはじめて「じゃあ、こんなことを試してみましょう」といった具合に、新しい発想が湧いてくるはずです。そのためにはまだまだ周知が必要ですし、社内の受け入れ態勢も整えなければいけません。正直時間はかかりますが、これまでどおり子供たちに誇れる仕事を地道に続けて、いつか実現したいと思います。
- ―それが実現できた時、どんな製品が誕生するか今から楽しみですね。今日は素敵なお話ありがとうございました。
- どうもありがとうございました。